名瀑「熊の滑り台」を訪れる時、今日こそオヤジに逢ってしまうかな?と、多少なりとも頭をよぎるのである。
十数年前のことだ。撮影後、車を少し走らせたところで林道を横切る黒い塊とニアミスをする経験をした。そうあることではないが、確率はゼロではない。清らかな流れを堪能しながらも、心のどこかで「もしかしたら・・・」と臆病風がそよそよと吹き始めていた。そんな時は些細な気配に敏感になってしまう。枝が揺れる音、虫の羽音・・・ちょっとした出来事にも過剰に反応してしまう。
撮影ポイントを少しずらそうと位置を変えたら、足元から何かがぴょ〜んと飛び跳ねた。一瞬、ドキッ。よくよく見てみると、清流の住人、カジカガエルだった。三脚からカメラを外し、慎重に近寄る。周囲からは何匹もの清々しい鳴き声が聞こえてくる。新緑の頃は彼らにとって恋の季節なのだろう。もしかしたら意中の人(カエルだね)に会いに行く途中だったのかもしれない。
撮影中、撮影後もオヤジに遭遇することなく無事帰還した次第である。