足元を何とか確認できるほどの濃霧だった。目指す木々に向かって歩いているつもりが、まったく見当違いの方角に進んでいて苦笑い。自分の立ち位置がわからないことほど不安なものはない。勝手知ったる場所なので焦ることはなかったが、霧の中から見慣れた木々が現れた時は正直ちょっとホッとした。
濃霧の中で思い出した話。
砂漠を彷徨っていた旅人が微かに残る足跡を見つけた。「この足跡を辿れば助かる」 ひたすら足跡を追い続けると、やがて足跡は二人分になった。さらに歩くと足跡は三人分に。そして四人分に増えた。そこで旅人はようやく気がついた。「この足跡はすべて自分のものだ」 旅人は大きな円を描くように歩いていただけだったのだ。砂漠に響く微かな銃声を聞いたベドウィン(砂漠の住人)は、旅人が倒れた数キロ先にいた。